湯川潮音スペシャルインタビュー【前編】

(P1より続く)

──印象的なのが管楽器です。伴奏というより、一緒に唄っている、どこか親しげに語りかける声のようで、かつ、不思議な多幸感があります。これも自然の中で唄っていたということが大きいんでしょうか?

葉っぱのさわさわといったさざめきとか、風の音とか、つねに止まらないノイズがあるじゃないですか。それが押し寄せるというか、ふいに寄り添ってくる。しかも秩序がないですよね。アレンジのイメージはそういうところからやってきたのかもしれない。

──秩序はないけれど、人間以外の世界があるという確かさがある。

曖昧だから心地いい、正しくないから身をおけるという感じは音にも欲しいといつも思うところです。

──そういったところは、それぞれの奏者と、どのようにコミュニケーションをとり、創り上げていったのでしょう?

まず初めに自分のイメージする音を、こんな音です、と聴かせたりして伝えて、アレンジを送ってもらって。管楽器に関しては、藤原マヒトさんが中心になってくれました

──弾き語り一発録りをベースにレコーディングしたそうですが、挑戦的な試みだったのでは?

思ったより大変でした(笑)。ギターでの弾き語りから曲作りが始まって、信頼するミュージシャンにアレンジをお願いして、それを演奏するという過程をそのままレコーディングでもやれないかなと思って。

──どんなふうに進行したんですか?

1曲目の「ポーラ」でいうと、まずわたしとギターの安宅浩司さんと「せーの!」で、唄とギターを録音して。目を合わせながら、ハラハラドキドキな感じで(笑)。1テイクなので、唄とギターが被さっているから、唄だけ直すことができないんです。リスキーなんですけど、「わたし、唄を唄ってます!」というふうにしたくなくて。それは最初から参加ミュージシャンの方たちみんなに話しました。レコーディング前の発声練習もしなかったんです。物語の語り部なんだという気持ちで臨みました。

──ライブレコーディングの手法に近いですね。

本当は全部屋外で、全員集めて「せーの!」で録りたかったくらいなんですけど、機材的にかなり大変だということで。ストリングスの高原久実さん、村上咲衣子さん、片山奈都実さんの3人はいっぺんに録音しているし、それぞれ有機的な録音の仕方をしています。

──エンジニアの方とは、目指すものについてどんな打ち合わせを?

笹倉慎介くんに依頼したんですが、笹倉くんはシンガーでもあり、ソングライターでもあるので、歌の気持ちをよくわかってくれているし、付き合いも長くて、お互いに聴いてきたものや、共有しているものがたくさんあって信頼しています。曲作りの段階から、こういうアルバムが作りたいんだけど、どういうふうに形にしたらいいかわからない、どうやったらいいかな? というところから話し合っていきました。

──アルバムタイトルが決まったのはいつですか?

1年前ぐらいかな。「漂うものたち」の制作ブックにポツンとあった言葉で。「10の足跡」にしたいなと思ったから、10曲書かなきゃと思いました(笑)

──アルバムジャケットのビジュアルは、ヤン・シュヴァンクマイエルのような雰囲気がありますね。写真は東野翠れんさん、デザインは中島基文さんですが、どのようにアイデアを出していったんでしょう?

人形を並べてみようというのはデザイナーの中島さんのアイデアです。もっと怖いアイデアもあって、美術室にある石膏像の顔がわたしというバージョンもあったんですよ(笑)。音を聴いてもらって、二転三転して出来上がりました。翠れんも中島さんも、長い間やってくれているチームなので、わたしが求めているもの、きれいなだけじゃないザラザラした部分というか、適度な毒というか、そういうところを探っていったらこうなったという感じです。言われてみれば、シュヴァンクマイエルみたいですね。裏ジャケがまた怖いんですよ(笑)。

【前編】2022/9/16(金)公開
後編】2022/9/17(土)公開


【ALBUM INFORMATION】

2022.9.16 Release
湯川潮音 “10の足跡”

1.ポーラ
2. 枯葉
3. だれがつけただろう  
4. バースデイ  
5. あなたの国へ  
6. サン・テグジュペリ  
7. Jasmin
8. 語られない人のうた  
9. vincent
10. 風のうわさ
[ 参加ミュージシャン]藤原マヒト、安宅浩司、ヤマカミヒトミ、高原久実、片山奈都実、村上咲依子、佐藤綾音、中田小弥香、ゴンドウトモヒコ、関島岳郎、maika(Meadow)